Think Airi 013 「絶対特権」と「PURE SNOW」と十時愛梨
十時愛梨が歌った2つの楽曲、「絶対特権主張しますっ!」と「PURE SNOW」について解説してみます。
・「絶対特権主張しますっ!」とは
カバーアルバムJewelries Seriesの第2弾に収録された楽曲で、高森藍子、 日野茜、 堀裕子、 星輝子の四人とともに歌ったパッション属性曲です。第1弾の「Orange Sapphire」がアツアツな二人を描いたのに対して、こちらは「恋敵」が(しかもたくさん)描かれている点が特徴です。
・「絶対特権主張しますっ!」のタイトルの意味
ところで、曲の趣旨を理解するためには、タイトルを「絶対」「特権」「主張しますっ!」の3つに分解すると分かりやすいかも知れません。
「特権」という単語を辞書で引くと「ある地位にある者に与えられる特別の権利」と出てきます。この「特別の権利」というのは歌詞でいうところの、あの人に近づいたり、ちょっとした変化に気づいてもらうことですよね。でも、「特権」は「ある地位にある者」にだけ与えられる権利です。つまり、この歌詞で言えば、あの人の本命・彼女という立場にある人だけが持つ権利なんですよね。
でも、この歌詞の「私」はその地位にあるんでしょうか?
ここで二番の歌詞を見ます。
あなた達は特別じゃない わたしの方が100倍気づかれ・てる・もんッ!
他人と比べて私が100倍。これ、「絶対」ではなくて「相対」ですよね。その理由は単純に「私」が本命である確証が持てない(もしくは証拠がない)からではないでしょうか。
では、何が「絶対」なのかといえば、発動する特権の威力の絶対性、つまり私以外には楽しそうに話すことも絶対に許さないよ、という意味での「絶対」なのかな、と思います。
どんどん届く挑戦状、このままでは取られてしまいかねない「あの人」。何としても「絶対的な力を持つ権利」を使わなければいけない。でも「権利を発動できるか危うい私」。
そこでどうするか。「主張」なんです。
そもそも「本命」であることが他から見ても明らかなのであれば、優しくされたとしても女の子が勘違いすることは無いわけです。主張するまでもなく特権が発動するはずです。特権を持っているか危ういからこそ、私のほうが好意を向けられているんだから、あなた達は撤退してくれ、と主張するするほかないんですよね。なので、この曲の一番の肝は「主張しますっ!」にあるんじゃないでしょうか。
・「絶対特権主張しますっ!」コミュでの十時愛梨
ところで「絶対特権主張しますっ!」がデレステに実装されたタイミングではイベントが開催され、コミュの追加と、上位報酬[絶対特権主張しますっ!]十時愛梨が登場しました。そのコミュもあわせて振り返っておきたいと思います。
本コミュでは歌唱メンバー5人が期間限定ユニット「ゼッケンズ」として活動する様子が描かれています。と書きましたが、実際には、ゲーセンでクレーンゲームをしてから、ボウリングする光景が描かれています。なぜなら、レッスンより先にまず仲良くなろう、というリーダー愛梨の思いがあったから。
とくに輝子に関しては「ぼっち」であることに負い目を感じていたところを愛梨が大事なメンバーとして仲間の輪に引き込み、エンディングでは「みんなで出かけるのも悪くない」と言うようになっていました。輝子がIndividualsなどユニットでも活躍するようになっている今日からすると、非常に印象的なコミュと言えるのではないでしょうか。
そして本コミュ最大の特徴は、十時愛梨がリーダーを務めているというところにあります。
実は、「絶対特権主張しますっ!」が収録されたJewelriesのCDではボイスドラマが収録されていましたが、そこでは藍子が他4人のフリーダムさに振り回されるという展開でした。絶対特権コミュの冒頭でリーダーに立候補した愛梨に対して藍子が意外そうな反応をしたのも、ボイスドラマの影響があるのかもしれません。
とはいえ、愛梨がリーダーシップを取るのは初めてではなく、2015年夏の海の家アイプロでは、中間コミュでの反省会で桐生つかさに話題を振られても的確にコメントを返しています。輝子も意外だと語っていましたが、十時愛梨、しっかりしているところはしっかりしているのです。
・[絶対特権主張しますっ!]コミュでの十時愛梨
一方、上位報酬[絶対特権主張しますっ!]のコミュでは愛梨の別の面が見えてきます。まずは特訓エピソードですが、テーマは「絶対特権」。しかし、その意味合いは歌詞中の、他人を退ける「絶対特権」とは異なります。愛梨が例に出したのは「周りから優しくしてもらえた経験」。そして、その優しさに甘えることなく、アイドルとして優しさを届けたい、と続きます。受け取った愛に、愛で返したい、というのは愛梨の根底にある大切な考え方であることは、他の記事でも何度か触れているとおりです。
( Think Airi 006 フェス限SSR プライベート・メイドを推してみる - think Airi project )
一方、親愛度コミュでは「越権」に重心が置かれています。といっても、愛梨は初期レアの時点で既に距離感が近いので、「一線」があったのだろうか…と思ったり思わなかったり。ただし、愛梨の十時家への想いは非常に強いものなので、「家族と同じくらい」という言葉は、もしかすると普通の文脈で使われる意味合いより強いものなのかもしれません。
・「PURE SNOW」とは
一方の「PURE SNOW」は、Jewelries Seriesの第2弾で十時愛梨がカバーした楽曲です。原曲を歌うのは佐々木ゆう子さんで、テレビアニメ「火魅子伝」のオープニングテーマでもありました。
この曲に関してはリクエストに基づく選曲で、実際にリクエストされた方のコメントはTwitterで見ることができます。
最終的にとときんには木根尚登さんプロデュース佐々木ゆう子さんのPURE SNOWで応募しました。(あと他に応募したのは不採用でしたが、ままゆに織田哲郎さんプロデュース相川七瀬さんの夢見る少女じゃいられない)
— maukumana (@maukumana) November 2, 2014
とときんのデビュー曲のアップルパイ・プリンセスはすごく幸せそうな歌なのでこれと対比する形で悲恋の歌というのもギャップを狙うのであれば悪くないと考えました。特にこのPURE SNOWという曲名はアニバーサリープリンセス特訓前のイメージと合うと考え決めたのですが
— maukumana (@maukumana) November 2, 2014
PURE SNOWの歌詞を読み込んでいくと、歌の中で振り返っている過去がアニバーサリープリンセスの頃、一枚の写真というのがシンデレラガール特訓前の部屋に飾ってある写真、と言う様に連想出来てもうこの曲しかないなと思いました。
— maukumana (@maukumana) November 2, 2014
底抜けに明るい「アップルパイ・プリンセス」と対になるように選ばれた、というだけあり、「PURE SNOW」では「友達の恋人とわかっていて好きになってしまった、結ばれない悲恋」が描かれています。曲調もバラードとなり、十時愛梨の新たな一面を切り拓いた名カバーといえます。
・「PURE SNOW」が十時愛梨に何をもたらしたのか
「PURE SNOW」で表現力を付けた面を見せてくれた愛梨ですが、思い返してみると、ごく初期のころの表現力は覚束ないものでした。キリって顔もこんな感じでしたし。
ぷちデレラのエピソードでは、こんな一幕もありました。そして、ここで目標だと言っていた「悲しい気分とか、切ない気分」こそ、「PURE SNOW」で表現した気持ち、そのものだったわけです。
その後も十時愛梨は進化を続け、モバマスではオトナな表情を見せてくれるようにもなりました。[空のおくりもの]から続く一連のSRは切なさや哀愁といった単語が思い浮かびます。
デレステにおいては、さらにPをも翻弄してしまうような、小悪魔的な妖しい魅惑も手に入れました。詳しくは以前に紹介していますので今回は割愛します。
「アイドルのために書かれた曲ではない」という点だけをもってカバー曲を軽んじる論もあろうかとは思います。しかし、「アイドルのために書かれた曲」だけでは本人とかけ離れた曲は歌えないですよね。その意味で「PURE SNOW」は、「好きになってはいけない人を愛してしまった切なさ」という、十時愛梨本人が経験することがなさそうな感情を歌えることを示せた点、一種のベンチマークテストとなった点が大きいと思います。
十時愛梨が「元気いっぱい」だけではないことを示した「PURE SNOW」は、アイドル・十時愛梨を一段上のステージへ引き上げた楽曲であり、書き下ろしのソロ曲に匹敵する歌だと、私は考えています。
・「絶対特権」と「PURE SNOW」と十時愛梨
ところで、並べてみると「絶対特権主張しますっ!」と「PURE SNOW」もまた対になっていることに気付きます。「絶対特権」が「あの人から愛されているかどうかに対する不安」の上に成り立っているのに対して、「PURE SNOW」は「私が愛していることに対する確信」が核にあります。そして「PURE SNOW」は「表に出来ない愛」ですが、「絶対特権」では表に向けて「主張」しているわけです。
振り返ってみると「アップルパイ・プリンセス」ではプリンセスと王子の2人だけが登場する、シンプルな恋の物語でした。そこに恋敵という要素を加えて、さらに2通りの方法で作られた物語が「絶対特権」と「PURE SNOW」でした。
表現力の拙かった十時愛梨が、同じCDで対極にある2曲を歌ったこと。今から思えば、彼女のテクニカルなブレイクスルーにあったCDだと言えるでしょう。
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