Memo:「空想旅行」とは何だったのか ~第39回アイロワの考察~
さあ、この列車の行き先は?
第39回アイドルLIVEロワイヤルでちょっとした出来事がありました。
対戦相手として「序章/Little Devil」(白坂小梅、遊佐こずえ)と「空想旅行~序章~」(八神マキノ、長富蓮実)というユニットが初日に登場したのですが、これが第二章、第三章、そして終章と4部構成のサイドストーリーを織り成していたことが判明していったのです。
具体的には以下の組み合わせでした。
序章/Little Devil 白坂小梅、遊佐こずえ |
空想旅行~序章~ 八神マキノ、長富蓮実 |
二章/Dark Magic 工藤忍、榊原里美、兵藤レナ |
空想旅行~二章~ 喜多見柚、長富蓮実 |
三章/Hide & Seek 衛藤美紗希、有浦柑奈、涼宮星花 |
空想旅行~三章~ 十時愛梨、長富蓮実 |
白坂小梅、長富蓮実 |
空想旅行~終章~ 八神マキノ、喜多見柚、十時愛梨 |
左側は白坂小梅から始まるストーリー、右側は長富蓮実が旅をするストーリーと言うことができます。ここでは仮にストーリーAとストーリーBと呼ぶことにしましょう。そして終章で小梅と蓮実が巡り合うことで、ストーリーAとBが1つになる、という大きな流れがあることがわかります。
・ストーリーBとは何か
先にストーリーBについて考えたいと思います。
ストーリーBの主人公である蓮実の発言に注目すると「汽車」「駅」「旅」といった単語が登場することに気が付きます。それもそのはず。今回登場した蓮実の衣装は[夜空に祈りを]長富蓮実+という、「銀河鉄道」をイメージしたカードのものだからです。
そしてもう一つ注目すべきは、蓮実と共演した八神マキノ、喜多見柚、そして十時愛梨の発言です。
マキノ「あら、迷い込んでしまったのね。私たちの、或る物語の世界に…」
柚「黒魔術の道へ誘惑しようとする魔女たち、その結果や、いかに!?」
愛梨「う~ん、ホントにただの夢なんでしょうか~?油断は禁物ですよ♪」
この三人の発言に共通するのは、自分たちの居る世界が物語の世界だと認識した上で干渉しない、という点です。そしてその答えは終章でマキノが明かしています。
マキノ「私たちは語り部に過ぎない。どう帰結するかは、あのヒト次第ね」
つまり、ストーリーBは、語り部たちと蓮実が物語を傍観するストーリーだと言えます。
・語り部たちに注目すると
ではここで、語り部たちに注目してみましょう。
まずマキノ。諜報活動をしている、という本人の特徴もマッチしていますが、今回登場した[光と共に]というカードがトークバトルショーの上位報酬として登場したものであり、「語らいましょう。夜は長いわ」なんてセリフもあることも踏まえると、まさに語り手としてうってつけのチョイスだと言えます。
次に愛梨は[ほのぼの花歌]。こちらは手に巻物を持っていて「昔の人が綴ってきた想いが、たくさん詰まってるんですね。私、大切に読みます。」なんてことも言っていました。これもまさに語り部ですよね。
さて、柚はどうでしょうか。この柚は「LIVEツアーカーニバル 人魚公演 南海のファンタジア」の上位報酬として登場した、人魚を演じている時のものです。
演じている時の…と書くと「語り部」では無いように思えますが、「人魚公演」の内容を思い出してみると「島に住む神官と海に住む人魚が、人間と人魚の壁を乗り越えて協力して苦難に立ち向かい世界は救われ、人間と人魚は共生するようになりました」という物語でした。しかし、人魚より寿命が短い人間である神官は先立ってしまい、ユズは浜辺で神官のいた日々を思い返すのでした…という構成になっていました。
そう、人魚ユズは、神官との思い出を語り継ぐ「語り部」なのです。
・ストーリーAの正体
さて、人魚公演で神官を演じていた榊原里美は、ストーリーAで工藤忍と兵藤レナが扮する魔女が住む館に迷い込んでいます。それを見守る柚と蓮実のやりとりが、ゲストLIVEとして登場したときの以下の会話になる、というカラクリです。
蓮実「ここが、次の駅…。どんな物語が待ち受けているのでしょう?」
柚「おっ!ナイスタイミング♪ちょうど今、面白いことが起きてるんだ!」
つまり、ストーリーA-2は、ストーリーB-2で柚と蓮実が眺めている物語の中身になっているわけです。メタ的な視点に立つと、第二章はストーリーAとストーリーBの関係性を我々に示すための章だとも言えます。
さて、そうするとストーリーA-3も同様に、ストーリーB-3で愛梨と蓮実が眺めている物語の内容だということになります。ここで登場したのは[ラビングヴィラン]有浦柑奈、[小悪魔お嬢様]涼宮星花、そして[フェミニンチアー]衛藤美紗希です。
ストーリーA-3の話の流れは、A-2ほどには明瞭には描かれていませんが、「美紗希が目覚めたら柑奈と星花がいた(ゲストLIVE発生時)。導かれるままに付いて行って(対戦時)、夜に染まれば何も怖くない、と思ったりもした(LOSE時)が、「よくわかんないけど…あたし、行けないかなぁって」と言ったところ柑奈に「ムダですよ。あのヒトからは逃れられません。そう、私たちも…」と言われた(WIN時)」ということがわかります。
要約してみましたが、さっぱりわからないと思います。愛梨もこんなことを言ってましたし。
愛梨「この物語が、あなたに何を伝えたいのか、伝えたくないのか」
蓮実「難しいです…けれど、惑わされません。しっかり見極めます…!」
ちなみに[ラビングヴィラン]有浦柑奈のカードに「…聴こえますか?ヴァンパイアの目覚めの歌が。ダメ…声を出したら見つかりますよ」というセリフがありますが、今回の柑奈の「しー…。墓守に見つかってしまわないよう、慎重に行きましょう」とか、星花の「あのヒトに見つかる前に、こちらへ…」というセリフとリンクしているようです。
とすると、[ラビングヴィラン]有浦柑奈の「声を出したら見つかりますよ」の続き、「仲間にされてしまわないよう…今はただ、私に魅了されてください。」という部分がヒントなのかも知れません。ヴァンパイアのような存在がいて、それから逃れるように、柑奈は美紗希の手を引いた。でも、柑奈は柑奈で、美紗希に自分と同じく「夜に染まる」ようにさせたので、美紗希は拒んだ、という流れと解せます。
さあ、この ヴァンパイアのような存在とは何なんでしょうか。
その手がかりを求めて、敢えて始発駅に戻ってみたいと思います。
そう、長富蓮実が「銀河鉄道」に乗った、という点です。
・ストーリーBの正体
「銀河鉄道」といえば何を思い出しますか?
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」、そして松本零士の「銀河鉄道999」がありますよね。
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」では、ジョバンニとカムパネルラが、気づいた時には銀河を走る汽車に乗っていた、という旅の始まり方をしています。そして停車時間で降りた駅で出会った人や、汽車に乗り込んできた人たちとの会話を交えながら、汽車は天上に向かっていることが明かされます。*1そして、天上へ向かう人達が降りたあと、汽車にはジョバンニとカムパネルラだけが残り、会話を幾つか交わした後、ジョバンニが目覚めます。自分は夢の中にあったこと、そしてカムパネルラは川で溺れて死んでいたことを知るのです。
一方、松本零士の「銀河鉄道999」は、裕福な人間など特権層が自身の体を機械化することで永遠の命を手に入れ、一方、生身の人間は機械化人に虐げられる、といった時代を描いたSF作品です。物語は星野鉄郎の母親が機械化人に殺され、その直後に鉄郎がメーテルに出会うところから始まります。*2初めは母を殺した機械化人への復讐心と、母が遺した、銀河鉄道に乗って終着駅で機械の体を手に入れなさい、という遺言のために999に乗り込んだ鉄郎でしたが、999が途中で立ち寄る星での出会いと別れと通して成長し、終着駅の手前では、機械の体を拒否し生身の人間でいることを選びます。
さて、今回の蓮実の辿った物語は、宮沢賢治の銀河鉄道のような始まり方をしていました。しかし、一方で宮沢賢治の銀河鉄道は終着駅はありませんでしたが、蓮実は終着駅へと向かっていることが、第三章の愛梨との会話から伺えます。
蓮実「答えは、終着駅に…?」
愛梨「物語が終わる、その時に…」
松本零士の「銀河鉄道999」では、鉄郎は終着駅に着けば「機械の体を手に入れられる」と言われていたのですが、そこには実は機械化帝国の中枢があり、銀河鉄道は機械化帝国を維持するために必要な生贄を連れて越させるための列車だったのです。
「銀河鉄道999」は、原作の漫画とアニメとで設定が異なりますが、漫画では機械人間に必要なエネルギー源は、生身の人間から抜き取った魂、命の火だとされていました。そして鉄郎は、命の火からエネルギーを取り出す装置の部品にされるために、999で連れてこられた、という展開でした。
さて、「命の火」という単語が出てきましたが、どこかで見覚えはないでしょうか。
いらっしゃい…外は、寒かったでしょう…?
でも…もう、大丈夫。じきに…寒さも、辛さも…何も、感じなくなるから…。
あなたの魂はね、ここで…
孤独を照らす、燈火になって…燃え続けるよ
そう、デッドリーチェイス[白坂小梅]です。これで話が繋がりました。つまり、空想旅行の列車から長富蓮実が見届けてきた光景は、人々が集められて小梅のコレクションとして並べられていく、その過程だったのではないでしょうか。
・小梅は何をしようとしていたのか
それでは、小梅のコレクションの正体は何だったのでしょうか。
マキノ「結局、こうなってしまうのね。物語を膨らませすぎじゃない?」
柚「うーん。確かに、あのヒト、誰でも引きずり込んじゃうもんね〜」
柚「物語の住人になっちゃった子たち、そろそろ全部忘れたかな?」
マキノ「もう忘れたでしょうね。あの可憐な旅人さんも、きっとすぐに…」
終章での語り部たちの会話から推測するに、これは「銀河鉄道の夜」にも「銀河鉄道999」にもないオリジナルの要素のようです。小梅の元に集まっていたのは、「物語」だったのです。
そして物語に引きずり込まれたのは、神官サトミのような物語の登場人物だったかもしれませんし、物語の登場人物ではない生身の人間も含まれていたのかも知れません。ただ、確かなのは、ここでの小梅はデッドリーチェイス[白坂小梅]と同様に、孤独だったということです。
愛梨「おトモダチがいっぱいいれば、寂しくないですもんね〜。ふふっ♪」
柚「気持ち、わかるよ!忘れ去られた物語なんて、悲しすぎるもん!」
もしかすると、この物語での小梅は、忘れ去られた物語の主人公で、その孤独を埋めるために、他の物語の登場人物たちを自分の物語へと引きずり込んでいたのかも知れません。
・長富蓮実の旅立ち
さて、物語のアウトラインが掴めたところで、終章の小梅と蓮実のやり取りを見てみましょう。
ゲストLIVE発生時
蓮実「あなた、以前もどこかで…?あれ、あれは…どこだったっけ…?」
小梅「ふふ、馴染んできたね…。大丈夫、あなたの居場所は、ここだよ…」
対戦時
蓮実「でも、汽車の時間が…」
小梅「まだ、完全じゃない…か」
終章でも蓮実は物語に取り込まれず、旅、つまり自分の物語を続けようとします。終章のタイトルは「Endless Story」、永遠の物語です。しかし、小梅は「永遠を知ったら壊れてしまう」と言います。もしかすると、小梅は物語の中での自身の孤独を踏まえて発言しているのかも知れません。
DRAW時
蓮実「長い長い物語…ラストページには、色あせた押し花を飾りましょう」
小梅「最後は…今はまだ、ヒミツ。永遠を知ったら、壊れてしまうから…」
WIN時
蓮実「夢の続きを見させて…。だって、私…このままは帰れないの…」
小梅「うん…帰れないよ。続きは、一緒に紡ごう…ずーっと、一緒に…」
ところでこの会話、蓮実の発言は「色あせた押し花(続・赤いスイートピー)」、「夢の続きを見させて(夢の続きを見させて)」、「このままは帰れないの(赤いスイートピー)」と、松田聖子の曲の歌詞のオンパレードになっています。*3
それはもちろん、長富蓮実が渚のバルコニーで赤いスイートピーを抱えてたような人だからなのですが、第三章までは語り部との会話が成立していたのに、終章で急に小梅との会話がすれ違っています。これは、もしかすると蓮実が終章で蓮実らしいセリフを連発したのは、蓮実が小梅の物語に組み込まれることを拒んで、蓮実自身の物語を続けていくことの暗示なのかもしれません。
余談ですが、このストーリーの外での長富蓮実本人は「昭和のアイドル」という文脈に深く関わっているアイドルです。生身の人間がやっていたはずのアイドルが、本人は引退しても語り手によって永遠に語り継がれる伝説になる…と考えると、今回のロワのストーリーAと同じ構図だと思います。そして、それをストーリーBのごとく眺めてきたのが蓮実本人と重なるようにも思います。
しかし、アイドルとしての蓮実自身は「昭和のアイドル」のコピーではなく、あくまで、今の時代のアイドルとして生きていく意思があります。[夜空に祈りを]の一つ手前、[デイトレスピース]では「昔と今が出会って、恋して、新しい夢が生まれる…素敵ですね♪」とか「戻らず、受け継ぎたいんです!」といった発言があるのが、その証拠でしょう。
というわけで、[夜空に祈りを]長富蓮実と[デッドリーチェイス]白坂小梅が出会ったからこそ生まれた物語。それが「空想旅行」だったのです。
いやもうこれ、LIVEツアーカーニバルで公演をやってもよかったんじゃないかな。モバマスのライターさん、すげえわ。
・余談:十時愛梨は永遠を目指している件
さて、今回登場した愛梨の[ほのぼの花歌]については以前解説していますが、そこで「永遠」がテーマだと書きました。奇しくも、「空想旅行」のテーマでしたよね。永遠に愛されるアイドルになった時、十時愛梨本人はどうなっているのか…ちょっと想像してみると面白いですよね。
そして、一つ前の世代の「伝説のアイドル」を語り継ぐ存在でもあり、今を生きるアイドルでもある長富蓮実と、十時愛梨が共演できたことは、すばらしい機会だったんじゃないか、と思います。
十時愛梨を、時を越えて愛されるアイドルに、したいなぁ。